豊田自動織機(6201)の非公開化。なぜTOB価格は16,300円から18,800円へ引き上げられたのかを分析する。

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筆者撮影2019

2026年1月14日、株式会社豊田自動織機(以下、豊田織機)はトヨタ不動産株式会社(以下、トヨタ不動産)による公開買付け(TOB)への賛同および応募推奨を発表した。買付価格は1株あたり18,800円である。本稿では、開示された資料および筆者が算定した企業価値計算にもとに、今回のTOB価格の妥当性について分析する。

TOBの概要と価格決定の経緯

今回のTOBは、トヨタグループの資本関係見直しの一環として行われるものである。買付者はトヨタ不動産が設立したトヨタアセット準備株式会社であり、豊田自動織機の完全子会社化(非公開化)を目的としている。

当初、トヨタ不動産は買付価格として16,300円を提示していたが、豊田自動織機側の特別委員会による交渉の結果、数回の引き上げを経て最終的に18,800円で合意に至った。これは当初提案価格から約15%の上乗せであり、株主利益に配慮した結果といえる。

企業価値算定:理論株価とTOB価格の整合性

筆者が法算定した企業価値計算結果を参考に、今回のTOB価格18,800円の妥当性を検証する。

計算方法はディスカウント・キャッシュ・フロー法(以下DCF法)。毎年の純利益を期待利率で割って算出する。企業買収で一般的に使用される方法である。今回の価格算定でも数社の証券会社が見積もったものを参考に最終的に18,800円で妥結したようだ。

同社の企業価値算定において最も重要な要素は、事業価値に加え、保有する膨大な投資有価証券を含めた「資産価値」である。DCF法で算定した事業価値と資産から負債を引きを合計した企業価値は6兆770億円。これを発行済株式数(約3億2,584万株)で割った理論株価は18,650円。最終的に妥結した18,800円と非常に近い値となった。

これが16,600円は安すぎると市場関係者に言われた原因だ。

項目金額・数値備考
事業価値4兆1,113億円DCF法等による試算
非事業資産(保有株・現金等)1兆9,657億円ネットキャッシュ+投資有価証券
企業価値合計6兆0,770億円事業価値 + 非事業資産
発行済株式数3億2,584万株
理論株価18,650円企業価値 ÷ 発行済株式数
TOB価格18,800円今回の公開買付価格

TOB価格18,800円は、資産ベースで算出された理論株価18,650円と極めて近い水準にある。通常、複合企業(コングロマリット)特有の評価減により理論値よりも安く見積もられがちな保有資産価値を、ほぼ100%顕在化させた価格設定であり、既存株主にとって非常に有利な条件であると評価できる。

一方で、純粋な収益力(PER等)のみに基づいた理論株価は8,744円と算出されており、今回のTOB価格がいかに同社の「バランスシート上の資産価値」を重視したものであるかが分かる。

巨大な含み益:トヨタ自動車株などの保有状況

豊田自動織機の企業価値を押し上げている最大の要因は、トヨタグループ各社の株式保有である。同社は以下の通り巨額の株式を保有している。

銘柄名保有額保有割合
トヨタ自動車 (7203)3兆2,073億円9.07%
豊田通商 (8015)3,038億円11.18%
デンソー (6902)2,863億円5.41%
アイチコーポレーション (6345)517億円54.34%
アイシン (7259)402億円2.97%

特にトヨタ自動車株だけで3兆円を超える資産を有しており、これが同社の時価総額の大部分を構成していた構造が見て取れる。分析によれば、豊田自動織機が保有するトヨタ自動車株の価値(約3.2兆円)から、トヨタ自動車が保有する豊田自動織機株の価値(約1.2兆円)を差し引いても、約2兆円のプラスとなっており、実質的な資産超過状態にあった。今回のスキームでは、これらの株式持ち合いが解消されることになる。

本業の収益性と財務体質

本業のパフォーマンスと財務健全性を確認する。

決算期売上高 (百万円)営業利益 (百万円)営業利益率
2023年3月期3,379,891169,9045.0%
2024年3月期3,833,205200,4045.2%
2025年3月期4,084,984221,6955.4%
2026年3月期(予)4,000,000180,0004.5%

本業である産業車両や自動車部品事業は、売上高4兆円に対し営業利益率は5%前後と、製造業として標準的な収益性である。しかし、前述の通り保有株式の価値が極めて大きいため、企業全体の評価においては本業の収益力以上に、バランスシートの資産性が支配的であった。有利子負債は約1.9兆円あるものの、保有する流動資産や投資有価証券の規模と比較すれば、財務的な懸念は限定的である。

結論

今回のTOB価格18,800円は、豊田自動織機が抱える膨大な含み益資産を適切に評価し、理論上の資産価値(18,650円)をほぼ完全に反映した水準である。市場で長らく意識されていた「親子上場」や「複雑な資本関係」による評価減を解消し、株主に対して適正な価値を還元する取引であると結論付けられる。

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